JACTIM広報委員会
突撃レポート~筑波大学マレーシア海外分校~
JACTIM機関誌「会報」や「会報デジタル版」では、JACTIM活動の報告や役立つ情報を満載しています。その連載記事の一つである“突撃インタビュー"では、当地域の様々なトレンドを紹介すべく、JACTIM広報委員が話題の人物や会社を訪れて取材を行っています。
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永田恭介学長
今回は日本の大学として初めて海外分校設立(2019年12月末時点情報)を検討している筑波大学学長・永田恭介氏に突撃インタビューを行いました。約1時間のインタビューは、分子生物学者である学長からさながら大学で講義を受けているような感覚を受けました。マレーシア分校設立の話に留まらず、我々にとっても理解しやすい言葉に置き換え丁寧かつ情熱的に「教育とは?」を教えていただきました。
1981年にマハティール首相が提唱した東方(ルック・イースト)政策以来、マレーシア政府による奨学金で、大勢のマレーシア人が日本に留学していることは広く知られています。
2018年5月に行われた第14回総選挙において、当時92歳で自身2度目となる首相に就任されたマハティール氏が再び東方(ルック・イースト)政策の強化を志向し、同年6月に「仕事や学習に勤勉な日本式の教育を取り入れたい」と、安倍首相に対し日本の大学の海外分校をマレーシアに設立して欲しいと依頼した事がきっかけであったといいます。


取材風景 右から辻村真貴マレーシア分校設置準備室長(生命環境系教授)、山本委員及び高村委員
これに対し、マレーシアのみならず国際的な高等教育の場では、欧米の大学が先行する①オンライン教育と②本国以外での分校の設立[1]がトレンドとなっている中で、日本の大学は出遅れており、日本の高等教育をなんとかしたいという思いを永田学長は抱かれていました。
マレーシア日本国際工科院 (MJIIT)が既にマレーシアで教育を行っていることやASEANの中でも“人的資源のハブ”として可能性を秘め、アメリカやイギリスとは異なった強い独自性を有している国であるということをふまえ、マレーシアでの分校設立検討を決断されました。
永田学長は、日本国外に分校を設立する事だけが重要なのではなく、学生に「学位」を授与するということの重みについても強調されています。一定の時間を過ごしたから学位に相当するという安易な視座ではなく、自ずから理論的に解決策を導ける人材を育て、そのような生徒に「学位」を与えていきたいという考えをお持ちです。


取材風景 左から大庭良介博士(医学医療系准教授)、柏村委員、高村委員
また、筑波大学は、マレーシア国内の企業、大学、教育機関との密接な連携および協力を得ながらマレーシアに根差したマレーシアの人材育成に寄与することを設立の目的とし、マラヤ大学の施設にキャンパスを設置し、国籍を問わず学生を受け入れる検討をされています。
マレーシアにおける高校教育のシステムを考慮した入学試験を実施する予定で、学費はマレーシアにおける欧米大学の海外分校より、若干低い水準えるとともに、マレーシア政府にも奨学金制度の構築を促しています。
社会で通用するレベルの日本語を学生に教えるだけでなく日本の文化や倫理観も伝えるべく、日本人教員と周辺国も含めた現地教員とが協力し、教育力や研究力等、大学人として必要な能力を高める『Faculty Development』を進めていく方針です。
筑波大学は、Campus-in-Campusというコンセプトの基、世界の10の大学と提携しています。提携先の大学の教授が筑波大学で講義を行ったり、筑波大学の学生が提携先の大学で学ぶことができるバリアフリーなカリキュラムを備えています。マレーシア分校の学生が筑波大学本校で卒業研究を行う、またCampus-in-Campusで世界中の提携大学で学べる機会も享受できるような体制を整えることも検討されています。これらを筑波大学マレーシア分校で学ぶメリットとして、今後多くの受験生や関係者に周知していきたいとのことでした。


永田学長は学問と専門性の間にある壁をなくし、学生たちが幅広く学ぶことができるような環境を備えた「垣根のない大学」を理想とされています。教育プログラムにしても「Design Thinking」に基づいた数学+自然科学+社会科学をベースとした広い意味でのエンジニアリングとする計画であり、特定の学問のみで思考するのではなく様々な学問・理論を深めていくことにより社会の課題解決を目指されています。
社会・人間のニーズを明確化し、そのニーズを課題として解決・研究していくための学問であるという観点に沿った「Design Thinking」を基に、マレーシアでの社会貢献を担える人材の輩出を分校設立の目標と考えられています。
また、社会科学的に社会は人間のために存在しているとされ、自分が活躍したいという概念と他人に迷惑を掛けないという概念が二律相反するのが一般的な視座であるかもしれないのですが、実は必ずしもそうではなく、本来はその二つの概念が融合すべきであるという考えをお持ちです。
マレーシアという独自性の強い国で協調性を重視する日本的な資質を備え、社会に何かを還元できる人間を育てていくことが、マハティール首相が求めていることに繋がっていくのではないかとおっしゃいました。
倫理観は、時代、文化、背景により、何を重要視するか、心地よいか等の観点で常に作り直されていくものであり、未来のマレーシアの倫理観を作っていける人材を育てていきたいとのことでした。薬学博士でもある永田学長は、分子生物学、ウィルス学、構造生物学に一生を捧げ研究を続けられています。学問は年を取ればとるほど面白く感じ、深くなる実感があり、学びたい対象・興味は常に広くなっているそうです。
学長業務でご多忙の中、現在は、ビックデータを活用して仏典における言葉の変遷を解読し、社会・文化が言葉の変遷にどのような影響を与えたのかを共同研究し、そこで得た情報を遺伝子の研究に活用されています。学問は「こうじゃなきゃいけない、というのはつまらない!」という言葉が非常に印象的でした。
学問の楽しさを知り、人に教えることができる永田氏が学長として率いる筑波大学から、マレーシアならではの倫理観を作っていける人材が多く輩出されることを期待しています!
[1] 欧米の大学は本国以外に世界各地で分校を設立している。


左から柏村委員、高村委員、辻村マレーシア分校設置準備長、山本委員、永田恭介学長、石川書記官、大庭準教授
広報委員会編集委員
高村 祐輔 (三井住友海上火災保険マレーシア)
山本 有理(全日空)
執筆:柏村 信光 (INFINITY FINANCIAL SOLUTIONS)
<会報151号より抜粋>